2022年が終わりましたが、皆様如何お過ごしでしょうか。私の2022年は、漫画を1,000冊以上読むことに初めて成功し、充実した漫画ライフの年だったと言わざるをえません。
毎年年末になるとTwitterでフォロワー向けに漫画ランキングを作っていたのですが、今年からは趣向を変えてブログ記事という形で少し真面目に編集することにしました。
それでは、ランキング本編へ。いざ見ていきましょう!!
※あくまで個人による私的なランキングであることはご承知おきください。
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1位
評価ポイント私は昔から、独特な感性を持っている人や、しっかりした自我を持ち自分の意志でレールを外れていく人が好きだが、それを端的に言うと、「変な女」になる。 本作は「変な女が活躍する青年漫画」の旗手・冬目景の最新作。ベテランなだけあり、キャラ作り・表情・カメラワーク・セリフ回し・プロットなど、良い漫画になるために必要なすべての要素の完成度が高い。本年度の、地に足のついた青年漫画の中ではトータルの完成度で他の作品の追随を許していない。 ストーリーは、諸事情で会社員を辞めて祖父の古書店を継ぐことになった主人公姉妹が、未知の領域で苦労しながら経営していく話。マイナーな本に対する思い入れとか、文芸・出版的な文化に興味がある読者は引き込まれるはずだが、単に「変な女」たちの生活の様子を覗き見る感覚でも十二分に楽しめるだろう。 冬目景は以前から風景に現実のモチーフを取り入れることに熱心だ。過去作『イエスタデイをうたって』(1998) では井の頭公園の雰囲気が再現されており、私は吉祥寺で友達と会うたびに井の頭公園に連れて行き「これが冬目景の漫画で出てきたベンチだ!」などと言っていた。 実在の風景を漫画の背景として利用する方法は様々だが、冬目景の場合は写真にモノクロイラストのタッチへと変換するフィルターを掛けて、部分的に加筆しているようである。これは明らかにデジタル派のワークフローだ(2010年代末期以降の青年漫画で急激に増えてきた表現である)。画風を見ればわかるように元々は徹底したアナログ志向であった冬目景がデジタル寄りの表現を模索しているのは「アナログタッチの青年漫画のロールモデル」として注目に値する。中には写実感がありすぎて違和感を覚えるカットもあるが、総合的な“混ぜ方”は同業者の中でもかなり上手い。 |
2位
評価ポイントとにかく、キャラクターデザインがかわいい。この1点だけで「漫画ランキングに入れる1冊」として選べるくらいの、類い稀なる作家性。 ストーリーは「能天気な女子高生にいきなり角が生え、ドラゴンの子供であることが分かったら……」というキッカケから始まる、ごく普通のドタバタ系日常モノだが、続く展開が「この雰囲気の女の子ならきっとこう反応するだろう」という予測を最高の形で表現し、そのすべての過程に圧倒的なかわいさがある。 本来、漫画というのは本質的に オタク文化では常に、〈絵柄〉という面で時代を象徴する作家がいた。少年漫画は冨樫義博『HUNTER×HUNTER』、青年漫画は大友克洋『AKIRA』、少女漫画はCLAMP『カードキャプターさくら』、ライトノベルはカントク『変態王子と笑わない猫。』、アニメは堀口悠紀子『けいおん!』。数多くのフォロワーが生まれ、系譜が出来た。イラストを描く人にとっての憧れになるような作家たちである。『ルリドラゴン』の作者も、ここに名を連ねるようになっても不思議ではない。 本作の唯一の欠点は、そのキャラクターデザインが極まりすぎているあまり、日常モノとしての雰囲気を食ってしまっている所だ。日常モノは緩急が重要で、「つまらない」シーンや「シリアス」なシーンを淡々と描けるかどうかが作品としての奥行きを左右する。しかし、本作は全体が「ポップ」な印象に寄ってしまっている感じが否めない。かわいすぎるのも問題だ。このあたりは、作者が今後「現代社会にドラゴンの血を引いた少女が現れた時に抱えることになるはずの鬱屈とした自我を描くこと」とどれだけ真摯に向き合えるかにかかっているだろう。 あ、ちなみにお母さんがかわいくて好きです。 |
3位
評価ポイント異形とのファーストコンタクトものの「ふしぎ感」を、BL的な背徳感や恍惚感で昇華させた意欲作。 主人公の親友・光は、禁じられた山に入って行方不明になり、一週間後に戻ってくる。何事もなかったかのように振る舞う親友に対して、主人公は違和感を抱き、「お前やっぱ光ちゃうやろ」と指摘してしまう。光のように見えたソイツは、光の見た目を模倣しているだけのバケモノだった。バケモノの顔がドロッと剥がれ落ち、半泣きで「誰にも言わんといて」と懇願してくる。曰く、初めてヒトとして生活し、友達と触れ合い、主人公のことを殺したくないのだと。 これだけだと、いわゆるファーストコンタクトものでよくありがちな導入だ。本作が少し違うのは、バケモノとのコミュニケーションに、若い少年同士の背徳的な 光は身体の表面をパカッと開けることができ、その中には見るもおぞましい 日本の夏そしてホラーという要素も絶妙なマリアージュだ。 |
4位
評価ポイントこういう寓話的な短編集は、現代人にとって心の隙間を埋めてくれる大切な存在だと思う。 透明人間少女・狼少年・ドラキュラ・メデューサなどが普通に暮らす町の、ささやかな日常譚。おとぎ話の現代的アレンジといったところか。 自分の首の繋ぎ目を直すために糸を買いに行くフランケンシュタイン、髪の毛の蛇の死と向き合うメデューサ、飛べないドラキュラ、同級生が自分の事を「犬」として好きなんだろうと悩む狼男。 ファンタジー漫画において、特定の種族をマイノリティとして扱い、苦しみや葛藤を描く試みは広くなされてきた。本作はそういった(種族全体の)「生き辛さ」にさらりと触れつつ、ストーリーの主軸はあくまで少年少女たちの「個人の夢」「個人の家族愛」「個人の友情」「個人の死生観」そして――「個人の性癖」にフォーカスしているのが良い。 そこで見えてくる感情の機微は良い意味で現代的(世俗的)であり、共感しやすい作りになっている。こういったファンタジー作品を「卒業」してしまった大人にこそ読んでもらいたい一作。 |
5位
評価ポイント「変な女」のサスペンス的解釈。作中で「変な女」というキーワードが出てくるところから、作者が明らかに私と同類であり、キャラクター属性としての「変な女」が好きで漫画を描いていることが伝わってくる。 大学生の主人公は、図書館で1冊の本の中に手紙が挟まれているのを見つける。手紙に書かれた「文通相手になってほしい」というお願いに(大学生男子らしく)簡単に呑まれて、奇妙な文通が始まる。しばらくして、主人公は文通の相手がよく話す女子3人のうちの誰かなのではないかと気づく。 文通の相手を特定し、あわよくば告白したいと考える主人公。何も気づいていないフリをしながら3人の女それぞれと会い、どういう人間なのか確かめてゆく。そのうち、単に 個人出版の作品ということもあって荒削り感は否めないが、「変な女」への新しい切り口があったことを評価したい。 |
12位
評価ポイント
省略の美学。SF作品は細かい世界観設定を「説明」する必要性に迫られがちだが、日常系のライトSFとしてのバランス感覚が絶妙。
14位
評価ポイント
幼少期にテロリストに拉致されて育てられた男は、現代日本でまともな人生を歩めるのか。スパイアクション寄りの戦闘系青年漫画の王道。
17位
評価ポイント
SNSで誹謗中傷された有名人が訴訟したことを報告するのも珍しくない時代になったが、実際にどういうやり取りが行われているのかイメージできない人も多いのではないだろうか?
18位
評価ポイント
キャラクターイラストにおいて顔のパーツはあくまで「記号」として描かれる。メイクがテーマの作品で、ビフォー/アフターを作画するのは大きな挑戦。
当ランキングのレギュレーション
[出版元]
商業出版社、Amazon Kindle個人出版。
[媒体]
対象の出版元から発売された、紙または電子の漫画単行本。ただし、次のものは除外する:Kindle以外の電子媒体、単話で売られている作品、Webtoonに近い体裁のもの。
[期間]
2022年1月1日~12月31日に1巻が発売されていること。
ただし、2巻以降の最新巻が上記期間中に発売された作品のうち、2022年に大きなムーブメントがあった作品は対象とする。
[選出基準]
本ブログの筆者が面白いと感じた、または個性的な表現だと感じた作品を選ぶ。ただし、後者については、単に目新しいだけでは対象とせず、あくまで1つの漫画作品として他のタイトルと同列に並べた時に優れていると感じるものを選ぶ。
おことわり
Kindleのみ個人出版作品を選出対象に含めている理由は、「商業作品と同じ棚に並べたい」という作者のマーケティング観点での強い意志を感じるからです。
本記事で紹介した作品のレーベル名は、掲載誌の名前であり、コミックスのレーベルとは異なる場合があるのでご注意ください。例えば、グランドジャンプで連載されている作品の単行本はヤングジャンプコミックスになります。
評価ポイント
特撮の着ぐるみを着るうえでの精神性という特殊なテーマ。